猫と暮らした話、暮らす話

あるのは気づいてたけれどお参りしたことのなかったお稲荷さん、
その日はなんとなく足を踏み入れました。

お財布の中の小銭全部を鷲掴み、
お賽銭箱にそろりと入れ、
「えっと、まずは感謝を述べるんだっけ……?」
あやふやながら手を合わせたら、

もう、

「たーちゃんをよろしくお願いします」

しか出てこなかった。

「たーちゃんをよろしくお願いします」
「たーちゃんをよろしくお願いします」
「たーちゃんをよろしくお願いします」

礼をして、その場を離れる。

とぼとぼ歩きながら、
こんなにも、
自身の、日頃の感謝を述べようと一瞬前に思っていたことが消し飛ぶほどに、
たーちゃんの事が大切だったのだと分かりました。

そしてまた、あやふやな知識が水面を揺らすように到来する。

「あー、なんか、住んでるとこを伝えるんだっけ?忘れてた……」

せっかくお参りしたのに、
たーちゃんのこと、
ちゃんとお願い出来なかったかもしれない。
そんな哀しみとやるせなさが胸をよぎった。

その瞬間、

ヒュルヒュルヒュルヒュルヒュルッ、

シュタッ!!

灰色の猫が私の頭のてっぺんにお行儀よく座り、

「ここで〜す!」

と叫ぶではありませんか。

「ここで〜す!
さっきのお願いした人、ここで〜す!
この人にたくさん、いいこと、
お願いしま〜す!」

おっきな声で、私のことを神さまにお願いしてくれました。

たーちゃん、私のことすごく大切に思ってくれてる。
私も、たーちゃんをすごく大切に思ってる。

それが間違いのない事実だと分かり、
歩きながらしくしく泣きました。

しばらく歩き、感情の波が少し鎮まった頃、
まだ私の頭の上でお行儀よくしてるたーちゃんに、

「えっ、いつまで居てくれるの?」

と聞いてみると、

「思ったら、居るってことだよ」

と教えてくれました。

彼は体を脱いだので、それがいつでも出来るのだそうです。

私はとっても安心しました。

———-

生徒ちゃんが描いてくれた、たーちゃん。
写真よりもずっと、彼の魂が見える。

(2018年2月21日記)

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